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札幌地方裁判所 昭和24年(行)53号 判決

原告 前田太郎

被告 札幌市議会

一、主  文

被告が昭和二十四年十月十日なした原告を除名する旨の議決はこれを取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は主文第一項と同旨の判決を求め、その請求の原因として、

原告は昭和二十二年五月以來被告議会の議員であるところ、被告議会は同二十四年十月十日の第六回臨時議会で原告が地方自治法第百三十二條の規定に違反したとの理由で原告を除名する旨の議決をなした。しかし原告は地方自治法の右規定に違反したことはなく右除名処分は懲罰規定の濫用であつて法律上許されぬところである。被告議会が原告を除名する議決をするに至つたのは次の経緯によるものである。即ち右第六回臨時議会で日程第十九号諮問第一号「市道の幅員及び認定の変更並びに区域の決定の件」と題して市道南四條線の幅員変更及び南一條線の認定変更並びに白石二号線の区域について審議の際に、原告は「右南四條線の幅員については昨年八月市会議員斎藤忠雄外十二名の紹介により渡辺豊外五十八名からこれを三十六米にしてもらいたい旨の請願があり、工営常任委員会は現地の調査までなし数回にわたり檢討の結果右の請願を採択し、被告議会も亦昨年十一月十五日の定例会議で多数議員の賛同を以てこれを採択することに決定したのである。その採択の理由については当時の長沢工営常任委員長の報告並びに被告議会における討論において、殆んど言いつくされていることは未だ記憶に新しいことであるから改めて詳しいことは申上げないが、三十六米とする十分な根拠もあり、これによつて札幌市の受ける利益の諸点も当時の議事録に明かなことである。苟しくも札幌市百年の大計をも十分考慮して四十五米の幅員は必要なしとして被告議会において議決したものであるに拘らず天下り式に四十五米の幅員を強要して來たのである。これに対して一言半句の反駁も加えることなく御無理御尤もの態度をとることは全く市民に対して申訳ないことであり、議会の無能振りを余りにも暴露するものと考える。かかる場合こそ市民の公僕としての我々の使命を全うするためこの四十五米の幅員を認定することなく、三十六米と認定のうえ関係機関には本議会の名に於て強力に折衝することが至当である。」旨の発言をなした。ところが被告議会の議長は原告の右発言中の「天下り式に四十五米を強要したものである。」「これに対して一言半句も反駁を加えることなく御無理御尤もの態度をとつているのは市民に申訳ないことであります。」及び「議会の無能を暴露するものであります。」との言をとらえて無礼の言葉であつて議員を侮辱したものであり且つ議会の威信を失墜したとの理由で即日原告に対する懲罰処分を求めてこれを懲罰特別委員会に付託して審査させ、被告議会は右審査の結果に基いて原告の右の発言を地方自治法第百三十二條に違反するものとして、原告を除名する旨を議決したものである。

然しながら右の原告の発言中にも述べているように右南四條線の幅員については昭和二十三年十一月十五日の被告議会でこれを三十六米とされたい旨の一部市民の請願が二十六票対十五票の多数で採択の決議がなされているに拘らず被告議会は法律上の拘束力がないものとしてこれを無視し一気に四十五米とする諮問案を可決する勢にあつたので、かかる被告議会の態度は眞に民衆の納得する民主的行政とは言い難く、そのため原告は前記発言をしたのであつて、被告議会の指摘する右の用語は卑俗ではあるが事実を直言したまでのもので社会通念上決して無礼な言葉でもなく、敢て議員を侮辱し被告議会の威信を失墜させたものでもない。然るにこれを以て原告が無礼な言葉を使用し地方自治法第百三十二條に違反したものとして、除名の議決をなしたのは懲罰規定を濫用して反対意見を唱えるものを強いて排除し正当な言論を圧迫しようとして不当に法令を適用した違法のものであるからその取消を求めるため本訴に及んだ次第である。

と述べ、被告の答弁に対し、

昭和二十四年九月三日の第五回定例被告議会において原告に対し被告主張のような内容の勧告決議をなしその勧告書が原告に送付された事実、これに対し第六回臨時議会で議長から釈明を求められた際原告が「答弁の必要はない」と答えた事実、原告が被告主張のような訴願をなし又同年三月十七日南四條西三丁目の疎開跡地上に木造平家建店舖兼住宅一棟を建築した事実はいずれもこれを認めるがその他の事実は否認する。原告は南四條疎開跡地の整理事業を阻害する行動をしたことはない。原告が右訴願をしたのは前記請願採択の趣旨を考え市民の代表としてなしたものであり、右建築についても当時札幌市において右請願採択の事実を顧みず未だ買收手続の完了していない土地にまで道路拡張工事を施行して既成事実を作り上げようとする態度をとり、又都市計画上の諸手続が完了して工事に着手するまでにはなお相当の日時を要するところであつて、一方南四條疎開跡地を全面的に都市計画にくり入れることについては反対の輿論も多かつたため原告はその疎開者と共に疎開跡地の返還に努めると共に自分も疎開によつて失つた元の営業を再開して生活の安定をはかろうとして建築したのであつて他意はなく、右は法定の許可を受けずにした建築であつたので昭和二十四年四月三十日行政代執行法によつて除却処分に付せられたものである。然るにその建築跡地は現在も当時のまゝに放置されてあつて札幌市としては早急にこれを必要とする状態でないに拘らずこのことを以て原告が札幌市の疎開跡地整備事業の進捗を妨害するものとして前記勧告の理由とすることは当らない。右の次第であるから原告は前記勧告書に対して今更釈明する必要もないと考えていたので「答弁の必要はない」と答えたのであると陳述した。(立証省略)

被告訴訟代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として、

原告の主張事実中原告が昭和二十二年五月以來被告議会の議員であつたところ昭和二十四年十月十日第六回臨時議会で原告主張の議案審議の際原告の爲した発言中に「天下り式に四十五米を強要したものである」「これに対し一言半句も対策を加えることなく非協力に御無理御尤もの態度をとつているのは市民に申訳ないことであります」及び「議会の無能を暴露するものであります」という言葉があり、議長がこれ等の言葉を以て無礼の言葉であつて議員を侮辱し議会の威信を失墜するとの理由で原告に対する懲罰処分を求め被告議会が即日懲罰特別委員会の審査を経て地方自治法第百三十二條に違反するものとして原告を除名する議決をなしたこと及び原告主張の日時その主張のような請願が被告議会で採択されたことは認めるがその余はすべて否認する。被告議会が原告を除名したのは次の理由によつて正当である。即ち原告は從來札幌市の南四條疎開跡地整備事業を阻害する行動をとつて來たものである。右疎開跡地は終戰後札幌市当局が火災予防、衞生、交通、美観等の面から檢討し都市計画上幅員四十五米の道路設定を必要と認めてその計画を進め被告議会で議決した予算に基いて右疎開跡地の賃借起工及び買收の承諾を得てその整備工事に着手し、昭和二十四年二月二十四日附建設省告示第一一四号によりその幅員を四十五米とする旨決定されたものであつて、原告は右の事情を知りながら建設大臣宛に右幅員を三十六米とされたい旨の訴願を提起したり、法定の許可を受けずに勝手に右疎開跡地に建物を建築する等その整備事業の進捗を妨害する行爲をして來たものである。そこで被告議会は右原告の阻害行爲により札幌市政の円満な運営に支障を來し市民に疑惑の念を抱かしめるのを遺憾として昭和二十四年九月三日第五回定例議会で原告にその反省を促す勧告決議をなし、その旨を記載した勧告書を同年九月五日原告に送付した。ところが原告は右の勧告書を受領したに拘らず何ら弁明をなすことなく同年十月十日の第六回臨時議会で原告主張の議案審議の際に質問に藉口して南四條線の幅員問題につき反対意見を述べる際に前記のように「天下り式に四十五米を強要したものであります」「之に対し一言半句も対策を加えることなく非協力に御無理御尤もの態度をとつていることは市民に申訳ないことであります、議会の無能を暴露するものであります。」と被告議会を誹謗する発言をなし、且つその後において前記勧告書に対する釈明を求められたところこれに対し「答弁の必要はない」と放言したものである。右の放言は被告議会の意思を無視したものであつて議員として非民主的な無礼の言葉であり、又右の「天下り式に四十五米を強要したものである」との点は故意に事実を歪曲したものであり、「之に対し一言半句も対策を加えることなく非協力に御無理御尤もの態度をとつていることは市民に申訳ないことであります、議会の無能を暴露するものであります」との発言は被告議会及び議員を誹謗した無礼の言葉である。右の発言はいずれも地方自治法第百三十二條に所謂無礼の言葉に該当するは勿論、これを綜合すれば一層無礼の言葉であることは明かであつて議員を侮辱し被告議会の威信を失墜したものである。そこで議長は直ちに職権で原告に対する懲罰処分を求め、懲罰特別委員会に付託して審査のうえその結果にもとづき被告議会において全員一致で原告の右発言を以て地方自治法第百三十二條に所謂無礼の言葉に該当するものと認めて原告を除名する議決をなしたものである。剩え原告は右発言の取消をしないばかりでなく右特別委員会において弁明の機会を與えられたに拘らず敢て弁明をなさなかつたものであると述べた。(立証省略)

三、理  由

原告が被告議会の議員であつて、被告議会が昭和二十四年十月十日第六回臨時議会で原告主張の議案審議の際に議長は原告の発言中に無礼な言葉があつたとして懲罰処分を求め被告議会は懲罰特別委員会の審査を経た上原告に地方自治法第百三十二條に違反する所爲があるものとしてその除名議決をなしたことは当事者間に爭がなく、成立に爭のない乙第二号証によれば右第六回臨時議会において原告主張の議案審議に際し原告が爲した発言が「この南四條線の幅員については昨年八月市会議員斎藤忠雄外十二名の紹介によつて渡辺豊外五十八名から幅員を三十六米にしていただきたいという請願があつたのであります。工営常任委員会において現地の調査を数回にわたり檢討の結果この請願は採択をみたのである。市議会は昨年十一月の定例議会において多数議員の賛同を以てこれを採択した理由については、この当時の長沢工営常任委員長の報告並びに市議会における討論において殆んど云いつくされており未だ記憶に新しいものでありますから改めて詳しいことは申上げませんが、三十六米にする十分な根拠がありこれによつて受ける当市の利益のことも当時の議事録に明かなことであります。市議会において苟くも議決したにも拘らず天下り式に四十五米を強要したのでありますが、これに対し一言半句も対策を加えることなく非協力に御無理御尤もの態度をとつていることは市民に申訳ないことであります。議会の無能を暴露するものであります。」というにあつたことが認められ、本件懲罰の理由が原告の右発言中の「天下り式に四十五米を強要したものである」「これに対して一言半句も対策を加えることなく非協力に御無理御尤もの態度をとつているのは市民に申訳ないことであります」「議会の無能を暴露するものであります」との語が地方自治法第百三十二條に所謂無礼の言葉に当るものであるというにあることは当事者間に爭のないところである。そこで本件において最も重要な爭点は右の語が除名に値する程無礼の言葉であるかどうかということにあるが、これを判断するについては單に右の言葉そのものだけでなく右の発言が爲された経緯や、その当時における議場の情勢を考え合せなければならないと考えるから先ずそれ等の点についてみるに、成立に爭のない乙第一、二号証、同第四号証の一乃至十、甲第六、七号証及び被告代表者本人訊問の結果を綜合すれば、札幌市南四條の疎開跡地については札幌市当局は終戰直後から火災予防、衞生、交通、美観等の見地からこれを道路として南四條通の幅員二十米を四十五米に変更する計画を立て市議会もこれに協力して來たもので、昭和二十三年十一月十五日の被告議会でこれを三十六米とせられたい旨の一部市民の請願が採択せられたが、その後の市議会においては再び市当局の方針に協力することとなつて市当局は疎開跡地の整備作業を進め一方建設大臣は都市計画北海道地方委員会の議を経て昭和二十四年二月二十四日右道路の幅員を四十五米に変更する決定をし、市は右計画の実施を急ぐこととなつたが、原告は疎開前右土地の一部に店舖を設けて営業をしていた関係からこれに反対し、建設大臣の右決定に対し訴願を提起する一方法定の許可を受けないで右疎開跡地に建物を建設したり(右訴願及び建物建設の事実は当事者間に爭がない)市会議員の地位を利用して市の水道課員を動かして右疎開跡地に無許可で建設せられた屋台店に上水道の施設をさせたり、原告自らも屋台店を建てたりして被告議会の議決の下に爲されている疎開跡地整備事業を妨害するような行動に出た爲多数市会議員の反感と一般市民のひんしゆくを買い、市議会は昭和二十四年九月三日第五回定例議会の最終日において原告の行動は前記都市計画実施上重大な阻害であり延いて市政の円満な運営に支障を來し市民に疑惑の念を抱かせること大で誠に遺憾に堪えないからその反省を促す旨の勧告決議をなし原告の反省を期待して居つたこと及び第六回臨時議会においても予期に反し原告は依然その態度を改めず前記のような発言を爲したので他の議員はいずれも侮蔑を受けたとの感を深くしたが、次で原告は議長から前議会において爲された勧告決議についての弁明を求められて答弁の必要なしとしてこれを一蹴したので一層他の議員の憤激を買い、遂に議長は懲罰処分を求めることとなり被告議会は全員一致原告除名の議決をするに至つたものであることを認めることができ右認定を覆すに足りる証拠はない。しかして原告が三十六米案を以て最も適当なりと思料する限りにおいては計画確定前市議会においてこれに反対したり建設大臣の決定に対し訴願をしたりすることは必ずしも非議すべきではないが如何なる理由があるにせよ法定の許可を受けずに右疎開跡地に勝手に建物や屋台店を建築したり、市会議員の地位を利用して右疎開跡地に水道を施設させたりして被告議会の議を経て爲されつつある疎開跡地整備事業を妨害するようなことは公人として当に唾棄すべきものであるといわざるを得ない。從つて被告議会が原告に対し反省を求める勧告決議をなしたことは首肯するに足るところであつて、原告も自ら省るところがあるべきであつたのに依然その態度を改めず次の第六回臨時議会において前記のような発言を爲し、前記勧告決議に対する弁明を求められてその必要なしと一蹴するに至つては他の議員の憤激するのも当然であつて殊に前記発言中「天下り式に四十五米を強要したものである」「これに対し一言半句も対策を加えることなく非協力に御無理御尤もの態度をとつていることは市民に申訳ないことであります、議会の無能を暴露するものであります」との言葉は右の経緯と当時の情勢に照すならば原告の主張するように單に事実を直言したものとは云い難く、諮問案に対する反対意見を高唱するあまり徒らに感情の末に走り却て事実を歪曲して被告議会を攻撃する侮辱的言辞であつて議会人としての冷靜を欠き、いささか礼を失し軽微ながらも無礼な言葉であるといわなければならない。從つて被告議会が右原告の発言を以て地方自治法第百三十二條に所謂無礼の言葉に該るものと認めて本件懲罰事犯の原由となしたことに非違はないものというべきである。

然しながら地方自治法第百三十五條は懲罰として戒告、陳謝、出席停止、除名の四種を規定し、その内除名は特に議員の三分の二以上が出席しその四分の三の同意を要するものとして事の愼重を期しており、正に極刑ともいうべきものであるから原告に対する本件懲罰事犯において除名を選択することが果して適法か否かの点については、また別の見地から判断すべき問題である。しかして普通地方公共団体の議会における懲罰の対象は地方自治法の規定の趣旨及び議会が議決機関であることの性質に照し、議場又は議会内における議員の言動に限られるものと解するのを相当とするから、原告が議会又は議場外において南四條疎開跡地の整備事業につき前記のような非難に値する行爲をなしたにしても、これは懲罰の対象とはならないのであつて、懲罰はあくまでも議場又は議会内の原告の行動についてのみ科せられるべきである。ところが成立に爭のない乙第二号証、同第三号証の一、甲第三号証の三及び被告代表者本人訊問の結果並びに弁論の全趣旨を綜合すれば、懲罰特別委員会及び被告議会における本件懲罰事犯の審議に際し、前記のように懲罰の原由である原告の議会内での言動に限られることなく、屡々南四條疎開跡地の整備事業に関する原告の議場外での行動に論及され、原告に対する一層の反感を釀成して一気に除名議決をなした事実が認められ、いささか軽卒のそしりを免がれないであろう。原告は感情の末に走り前記認定のような無礼の言葉を使用したことではあるが、前にも述べたようにその程度は極めて軽微であつて到底原告の議員としての生命を奪う極刑に値するものとは認め難く、從つて原告を除名する旨の被告議会の議決にはその必要の程度を著るしく超えた違法があり取消さるべきものである。よつて原告の本訴請求を理由ありと認めてこれを容れ、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九條を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 斎藤敏之 矢吹幸太郎 石沢健)

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